8枚/月

東北新幹線が開業する前の年ですから、国鉄の商売が傾き出して既に幾久しい(笑)というか、もはや沈没寸前と呼ぶべきフェーズではありましたが、とはいえ東北線では貨物も旅客も列車がギュウギュウにひしめき合って、その結果、泣く泣く【看板特急のスピードを落として】まで列車本数を詰め込まなければならないほどの極限状況に近い様相を呈していました。

かつて仙台から上野まで3時間58分で走破していたひばりでしたが、この時期には4時間15分を要するダイヤで走っていました。

僅か20分と侮ること勿れ!

仙台7:00発のくりこま1号が青森11:47着、11:30発はつかり1号は16:01着、所要時間差は16分。これで急行料金と特急料金の差がつくんですから、『20分も余計にかかるんなら、そんなの急行ひばりじゃねえか!』なんて悪態ついたもんです。もっとも、そのぶん急行だってスピードダウンしたんですけど(笑)、そのくらいギュウギュウに詰め込まれたダイヤで走っていました。

(但し、誤解のないように明記しておきますが、このスピードダウンはあくまでも大宮上野間の軌道保守間合い確保のために講じられた措置です。昼間に1時間の保守時間帯を捻出するため、東北奥羽高崎上越信越羽越の各線の列車の通過時間に意図的に空白部を設けるべく苦渋の調整を等しく強いられた結果でした。とはいえ、それによって前後(ひいては全体)の速度低下を惹き起こしたわけですから、ダイヤのスジの傾斜角と反比例する形で単位時間当たりの列車密度は高くなったワケです。)

東北線がそんなギュウ詰めだった時代。

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無人化されて久しいですが、東北線の宮城県最南端・越河駅に駅員が配置されていた頃、そこで発行された定期券におもしろい実績を見つけました。

買って使った人は同一人物で、誕生日は1月21から2月20日の間のようですが、それはどうでもいいんで、ご覧頂きたいのは券番号です。夏休みや冬休みのある学生さんの通学定期じゃありません、毎日仕事に行かなきゃならない人用の通勤定期です。1月20日に発行されたのが#0042、その一ヶ月後、翌2月19日の券は#0050。31日間で8枚。すなわち単純計算だと『4日に1枚売れたかどうか』ってことです。

定期券というのは、買う方だってそんなに頻繁に買いませんから、そうそう売れるもんじゃないってことは想像がつきます。にも拘わらず、『定期券売り場って、いつ行っても混雑してる』と感じた方が案外多いんじゃないでしょうか。

そうですよね。だいたい新入学とか進級とか就職とか、はたまた運賃値上げの直前とか、通学生も通勤者も、とにかく同じタイミングでいっぺんにドッと窓口に押し寄せることが多いですもんね。

でも、大きい駅の定期券売り場なんて普段は閑古鳥が鳴いますし、普通列車しか停まらない小さい駅では定期券も普通の切符と同じ窓口で売ってましたから。

で、そういう小さい駅ではどんな定期券が多かったのかというと、

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こういうのだったり

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はたまたこういうのだったり。

交通公社船橋営業所の券も深川駅のも券面記載事項欄はすべて空欄で、乗車駅下車駅・関係日付・運賃・氏名年齢すべて記入するフォーマットです。これなら有効期間も含めてオールマイティー、定期券を発行できる区間内であれば、発行時の手間はかかりますがあらゆる種類のオーダーに対応可能です。

さてここでさっきの越河駅フォーマットをもういちどながめ直してみましょう。

かなりの項目がレディーメイドで印刷済み、有効期間も決まってるし、運賃計算も済んでいる、発行時に記入しなければならない個別(=券固有の)情報は氏名年齢のみ、そこへポンポンと発行日・有効期限のスタンプを捺せば、ハイ、一丁あがり!

このように発行の手間を格段に省いたフォームを【常備式】と呼びます。

富山の置き薬を常備薬と呼びますが、しょっちゅう使う薬ばかりだからそういう呼び名がついていることは(よほどのバカとか天邪鬼は別として)誰でも判ります。

常備式も基本的には同じ発想です。発行頻度が高いから、いちいちその度に全部を書き込む手間を省いて、申し込みを受け付けたら瞬時にパッと発行できるようにあらかじめそのフォームを準備しておく。だから常備券。なるほど、納得。

と、ここまではよくわかりました。請求があればどんなに混雑していても旅客を待たせずすぐにパッと発行できるようにしておく、そのための常備券、行き届いたフォーマットです。

でもさ、ちょっと待って。

いっぺん落ち着いて考えてみた方がいい基本的なモンダイを見落としてんじゃない?

4日に1枚って、「いつでも来いっ!」ってカンジで気合入れて常備券つくって即応体制整えておく頻度なの??

冷静に考えれば、越河駅では4日のうち2分間だけ閑古鳥が鳴きやむ、と表現する方がむしろ実態を正確に反映してるんじゃないでしょうか?

まぁ、常備券の基準としてクリアーしなきゃいけない絶対的な数値とか指標なんてものはなかったんでしょうから、「作った券は駅長の責任に於いてすべて払い切れる」、そう判断されれば常備券製作は承認されたんでしょう。手元の実券を見渡した限りでは、管理局レベルの許可・承認といった手続きの存在を窺わせる痕跡は見当たりません。

それに、承認した駅長だってずーっとそこに勤務する終身職じゃない、数年後にはどっかよその駅に転勤しちゃうんだし。

一方、いつまでも売れ残っていよいよ処分しなきゃ、ということになった場合でも、いくら有価証券といったって現金そのものじゃないんだから、面倒を厭わずに厄介な帳票の始末をきちんとつければ、後は返納して裁断・焼却して始末してオシマイです。

実際、平成から令和に移行する2019年4月30日から5月1日にかけて、その【古ぅ~いフォーマット】を探してあちこち訪ね歩いたとき、何十年も捌けずに日に焼けて黄ばんでいた券が、アッというまに全て廃札処理されて掻き消えていた事実を知ってびっくり仰天したことがありましたから。

つまり、傍があれこれ気を揉むほど重々しいフォーマットじゃなかった、ということだったんでしょう。

とはいえ、越河のように小さな駅に常備定期券が置いてあったというのはちょっとした驚きです。いまや、この種の手間と時間と人件費を含む固定費を必要とする業務はほぼ全滅に等しい状況。こういった景色の消滅は、すなわちフォーマットの均一化か、さもなくば業務そのものの抹消を意味します。

道理で、日本中どこを訪ねて歩いても同じようなフォーマットでさっぱり地域性とか独自性が伝わってこないつまんない場所ばっかりになっちゃうワケですね。

だとしたら、もう旅先の風物なんてそもそも期待する方が無駄、一人で黙って窓際に座り、流れ去る車窓風景に目を凝らすほかに旅行を堪能する手立てなんてなくなっちゃったと考えた方がよさそうですね。

いくら時代が変わろうと、山や川や海、空の景色だけはそう簡単に変えることなんかできないでしょうから…。

なんか、常備式の定期券から話があらぬ方へ逸れてしまいましたが、『来年は越河が無人駅になって40年目かぁ…』という事実に改めてある種の感慨を催して、柄にもなくおセンチになっちゃっいまして。

いやはや、お恥ずかしい m(__)m






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プロフィール

急行まつしま2号

2019/8/12 に Yahoo blog から移ってきました。2008/3/28 から活動しています。

残念写真はFH君(高校時代の同級生)の叔父さん(故人)が1960~62年にかけて撮影したもので、まつしま(以下、管理人という)は約40年前、高校卒業時にそのベタ焼きスクラップ帳をFH君から預かりました。

約半世紀が過ぎ、管理人にも終活準備の必要が迫ってきましたが、どの被写体もこのまま埋もれさるのはあまりにも惜しいと考えて公開を決意しました。

全ての記述と残念写真を除く全ての画像は、管理人によるものとお考え下さい。従って、残念写真に対する苦情・異議等は、いっさいお受け致しかねます。この点、あらかじめご了承頂くとともに、不同意の方の閲覧は(たとえ記事が全公開に設定されている場合であっても)お断り致します。

また、残念写真以外の全てについては、管理人の責任と権限で対応致しますが、管理人が【適切でない、相応しくない、好ましくない、不快である】等と判断した書き込みは、発見し次第、全て管理人の一存で警告なしに即刻削除します。この点も併せてご了解頂きます。

なお、上記の点は、全て【管理人の固い意思】であって【どなたからどのような種類の申し入れ等があっても応じない】こと、及び【どなたとの議論にも応じない】ことを、あらかじめ明記しておきます。

これらの方針に同意されない方の閲覧は当方から固くお断り致しますので、どうぞ速やかにご退出ください。

記事を閲覧される方は、(万が一紛議等が生じた場合も含めて)全てここに記述した方針に同意され応諾された方として対処致しますので、念のため此処に併せて明記しておきます。

原則的に【来る者は拒まず】が基本スタンスですが、ただし、管理者に対して過去に敵対的言辞等を執った事実のある者からの再接触等は、たといそれが当該敵対的行動の撤回及び謝罪並びに釈明等であっても、その全てを拒絶します。

もし釈明や和解の必要を感じたなら、その時点で直ちにそう処置した筈であり、またそう処置すべきでもありました。それをしないまま再接触を図るということは、

①なんらかの意図があって、非敵対的な態度を偽装もしくは隠蔽している

②記憶力に欠陥のある攻撃的性格

上記①または②のいずれかと考えざるを得ません。すなわち将来に於いて再び敵対的言辞を吐き散らし敵対的行動を執る危険性が極めて大きい者である可能性を窺わせる者である、と見做し得るわけで、そういう面倒くさいヤツと関わり合うのは金輪際願い下げ、二度と御免蒙ります。

そんなヤツに愛想笑いなどする気は全くありません。見つけたら直ちに叩き出して塩を撒くので、そのつもりで。

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